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オニヒトデ大発生の危機
佐伯信雄(八重山ダイビング協会環境対策委員)
(八重山毎日新聞に08年3月9日11 日12日の3回連 載で投稿・掲載され たものです。)
 今年国際サンゴ礁年とうたわれた年頭、昨年誕生した西表石 垣国立公園 海中公園海域で、保護指定されたばかりのマンタが回遊する川平石崎に多数のオニヒトデが確認され、1月10日・11日行なわれたダイビング協会ボランテア 延べ63人によるオニヒトデ駆除は1954匹を記録して、八重山サンゴ礁最大の危機が発生した。昨年のサンゴ白化に追い打ちをかける台風被害で、満身創痍 状況に続くオニヒトデ大発生の可能性と、観光産業・水産業に迫る危機を市民皆さんにお知らせし、共に考えていただきたく筆を執ります。
以下はオニヒトデ駆 除数の推移で、昨年12月から急激に増え始めた。
・2003年駆除総数2,918 匹
・2004年駆除総数4,841匹
・2005年駆除総数7,517匹
・2006年駆除総数4,853匹
・2007年駆除総数3,217匹
・2008年3月1日現在、駆除総数10,429 匹
※オニヒトデ最新情報:http://churaumi.net/onihitode/onihitode1.html
※2007年・八重山諸島のサンゴ白化:

1・国際サンゴ礁年とは
 1992年国連環境開発会議で採択された「アジェンダ21行動計画」でサンゴ礁保護の重要性が強調され、サンゴ礁を取り巻く現状が世界的に知られるよう になった。1993年、日米による地球的展望に立った協力のための共通課題への2国間協力「コモン・アジェンダ」が打ち出され、翌年開催第2専門部会で 「サンゴ礁」が討議されて、1994年日米豪仏等8カ国による、世界規模のサンゴ礁保全パートナーシップ「国際サンゴ礁イニシアティブ」(ICRI: International Coral Reef Initiative)が発足した。2005年7月から日本とパラオ共和国が共同で事務局を実施(2007年6月まで)、現在はアメリカとメキシコが共同 で事務局を担当する。12年の歴史を持つ国際パートナーシップは、ブッシュ大統領の誕生で見事に封印されてしまった。前クリントン大統領署名政令 13089「アメリカ・サンゴ礁タスクフォース」は1998年設立で、世界のサンゴ礁保全を牽引すると宣言したのだが。現在基地問題で悩まされる沖縄から は想像もつかない日米2国間協力「コモン・アジェンダ」から生まれた「国際サンゴ礁イニシアティブ」が、史上最低の米国大統領ブッシュの封印を受けずにア ル・ゴアによって牽引されていたら、沖縄のサンゴ礁保全は予想も出来ない展開を生んでいたに違いない。
 国際サンゴ礁年は1997年についで2度目で、その年初めて世界統一サンゴ礁調査が30カ国300カ所で行なわれた(リーフチェック)。
 石垣市に8年前開設した環境省・国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターは、国際サンゴ礁イニシアティブのもと、サンゴ礁に関する東アジア海地域におけ る中心的役割を果たす事を目的としている。
※コモンアジェンダ:http://churaumi.net/coral/comon.html
※U.S. Coral Reef Task Force:http://www.coralreef.gov/
※Reef Check:http://www.reefcheck.org/ ※ 翻訳サイト:http://churaumi.net/coral/
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国際サンゴ礁年ポスター

2・石垣島は日本一のサンゴ礁島!
 2004年国内(沖縄)で初めて開催された「第10回国際サンゴ礁シンポジウム」時出版「日本のサンゴ礁」で、初めて国内サンゴ礁の概要が発表された。 国内のサンゴ礁総面積に占める沖縄県内のサンゴ礁面積は80%を占め、八重山のサンゴ礁だけでも国内総面積比率は55%にも達っしている。言い換えれば、 日本のサンゴ礁面積の半分以上が八重山のサンゴ礁で、造礁サンゴ種類数も国内最大の360種が確認されてるのも八重山なのです。八重山のサンゴ礁と言えば 石西礁湖が良く出てくるが、石垣島には日本一の規模を誇る東海岸の石東裾礁が台風の波浪から島を守り、生サンゴ被度では石西礁湖を上回る健全な海域(米 原・川平石崎・平久保・白保)を備える石垣島こそ日本一のサンゴ礁島にふさわしい。近年やっとサンゴ礁と陸域生態系の関わりが問われてきた。イノーも含む 干潟やマングローブはサンゴ礁生態系と一体のものである事や、山からのミネラルが豊かなサンゴ礁に関連している事も。昨年、1昨年には5月上旬国内最初の サンゴ大産卵では、石西礁湖からではなく石垣島米原海域から最も早く確認されている。
※2007年国内初のサンゴ大産卵:http://churaumi.net/yonehara/coral/07coralspawn.html
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(左)造礁サンゴ種数国内図     (右)昨年5月5日の八重山最初の米原海域サンゴ産卵

3・失われていく「島人の宝」
 復帰後の36年間でサンゴ礁の海はどれほど衰退したのだろうか?それは海岸線を歩いてみるだけで明らかである。特にイノーが衰退した事を石垣市民なら誰 でも知っている。かっての澄んだ海水と波打ち際まで生息するサンゴや、小魚の姿を見る事の出来ない海岸線が広がってるのだ。宮良湾の干潟は赤土の堆積でぬ かるんだ泥の干潟に変わってしまった。豊かだった名蔵湾は一部回復している所もあるものの湾奥の汚れは明らかである。しかし、すべてが衰退したわけではな く波打ち際に生サンゴや熱帯魚が見られる海岸が残されていて、その沖合サンゴ礁回復力は、数年で豊かな海中景観を再生させる生命力を備え、30年前のオニ ヒトデ大発生が繰り返しても再生してくるが、その空白期間における経済損失を行政および市民は理解していない。それは地球規模の気候変動による阻止しえぬ 災害だとしても、被害を予測し軽減する努力は可能である。
※みんなの米原写真展:http://churaumi.net/yonehara/minnano.html
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石垣島の健全なサンゴ礁

4・大発生オニヒトデ過去の記録
 1972年、今から36年前鳩間島から確認され、15年以上に渡って八重山全域に広がり、合計163万匹も駆除した歴史があり、サンゴの8割以上が死滅 してしまった。この時の大発生は琉球列島から紀伊半島にまで及ぶ。オーストラリア海洋研究所1997年発表ペーター・モラン博士論文「オニヒトデQ&A」 「38、オニヒトデはコントロール出来るか?」に日本の大発生に関する記述があるので、その一部を引用します。
<引用開始>
 過去15年間にインドー太平洋海域で約1500万匹のオニヒトデが駆除された。駆除プログラム最大のものは日本の琉球列島で試みられ(約1300万匹/ 八重山海域、約163万匹)、集中的な努力(駆除費用、約6億円)にもかかわらず、日本の駆除プログラムはオニヒトデ根絶とサンゴ礁保全に失敗したために 貴重である。
 インドー太平洋海域の大半のプログラムは日本の失敗を参考にしている。小さいエリア(1ha未満)での規則的な間隔での駆除が目的を達成した。このアプ ローチさえも必ずしも成功するとは限らず、グリーン島(1960年代)での努力は、2年間約4万4千匹のオニヒトデ駆除にもかかわらずサンゴ礁を保全する ことができなかった。
<引用終了>
※オニヒトデQ&A・38章:http://www.aims.gov.au/pages/reflib/cot-starfish/pages/cot-q38.html
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過去のオニヒトデ駆除数グラフ

5・過去から何を学んだのか?
「日本の駆除プログラムはオニヒトデ根絶とサンゴ礁保全に失敗したために貴重である。」との海外研究者の評価と違い、国内ではオニヒトデ消滅とともに大発 生問題は消えていくが、少数の国内研究者からは無計画な駆除が間引き効果を生み、サンゴ再生を遅らせたのではとの指摘がある。この過去の駆除プログラム失 敗からか駆除には予算を付けない行政方針が確率した。現在のサンゴは、過去の大発生で死滅した後に再生したものです。
 オニヒトデ異常大発生状況とは、大型オニヒトデが大量に昼間よりサンゴを補食する状況で、5年前より宮古島、ケラマ諸島で再発して、北は奄美諸島、紀伊 半島にまで達してる。27年前の過去の事例では、竹富島近海での一平方メートル当たり133匹の記録があり、3〜40センチの大型個体が積み重なる状態 だった。竹富島コンドイ浜の遠浅砂地にオニヒトデが侵入して、素足の旅行者が気ずかず踏みつけてしまう事故も発生した。
※オニヒトデ大発生の歴史:http://churaumi.net/onihitode/onihitode2.html
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オニヒトデがサンゴを食べてる現場

6・八重山海域5年間のオニヒトデ・コントロール
 環境省及び沖縄県予算によるサンゴ礁保全事業は、毎年の八重山全海域分布調査を基にした駆除海域選定と駆除により、年間駆除数は5千匹前後を推移して大 発生をコントロールしてきた。過去の駆除プログラムからの大きな違いは、まず最初に監視ありきというモニタリングの前提で、環境省予算による漁協チームの 八重山海域150ポイントモニタリング調査を踏まえて駆除海域が選定された。5年間のオニヒトデコントロールは地元のオニヒトデ研究者「上野光宏氏」を軸 とした漁協チームによって牽引された。環境省と沖縄県により予算化されたサンゴ礁保全事業はダイビング協会も参加していたが、駆除の大半は地元のオニヒト デ研究者「上野光宏氏」漁協チームによる。このサンゴ礁保全事業は県内他地域(本島、ケラマ諸島、宮古島)でも行なわれたが、他地域では大発生が起きてし まい、八重山海域だけが5年間大発生をコントロールしてきた。他地域と八重山地区の違いは、オニヒトデ研究者上野光治氏の存在があまりにも大きい。
 すでにオニヒトデ異常大発生なのか?個体が小さく(1〜2才)昼間はサンゴの影に隠れていて、大発生前の「準大発生」状況と言える。しかし今年春の水温 上昇期からの産卵が予想され、以後の大発生に至る可能性が高い。駆除に対しての反対意見も無いわけではなく、駆除が間引きになるのではとの心配も否定出来 ない。1998年の世界的サンゴ白化から昨年も繰り返したサンゴ白化や、2年続いた大型台風のサンゴ被害は、過去のオニヒトデ被害から折角回復してきたサ ンゴ礁に新たな被害を与えた。
※オニヒトデ最新情報:http://churaumi.net/onihitode/onihitode1.html
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石垣島南海岸08年2月29日の八重山ダイビング協会ボランテア駆除

7・オニヒトデ大発生の原因究明は〜
 オニヒトデ大発生の原因究明はサンゴ礁研究先進国のオーストラリアで前進しており、海水分析からオニヒトデの大発生する海域と大発生しない海域の海水に 含まれる成分の違いが解き明かされている。かって、グァム大学パークランド博士の太平洋各島百カ所以上の調査から、陸上からの栄養塩類流出3年後の異常発 生説が公表された。これは無人島でも山のある島ではありえる事で、日照り後の豪雨による土砂流出も異常発生原因となる。しかし、人間活動影響が沖縄の小さ な島々では大きな要因となり、例えば港湾工事中の記録的豪雨なども多量の土砂を海域に流れ込む等がある。大発生を根元から絶てるような知見はまだ得られて ないが、2つの推論から陸上からの赤土流出などが引き金となる説が有力視されている。サンゴ礁保全の為の地域活動指針を示す事は可能だが、復帰後の公共工 事依存行政体質がサンゴ礁保全活動の芽生えを生みにくくしている。
※石垣島赤土監視ネットワーク:http://churaumi.net/coral/akatuti.html
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赤土がイノーに広がる観音崎から2005年8月6日

8・地球温暖化対策とサンゴ礁保全
 地球温暖化対策先進地ロンドン市のニュースを見ると、その様々な努力には敬意を称したいが、肝心な事が抜け落ちていると思えずにはいられない。プレート テクトニクス理論から急速に発展した地球物理学では、地球上の生物誕生は海中からである事や、地球誕生後の大気中二酸化炭素96%を変えて酸素を増やし、 生物の陸上への進出を可能のしたのが造礁サンゴ群である。大気中の二酸化炭素を礁として固定化したその膨大な石灰岩が、陸上に移動して中国の景勝地・景林 等の陸域石灰岩となり、セメント原材料となって産業発展に活用された。
 地球温暖化対策になぜ二酸化炭素を固定化する「サンゴ礁保全」を対象としないか理解出来ない。二酸化炭素排出権取引は国内では行なわれていないが、海外 では「森林」が対象となって「サンゴ礁保全」が対象外なのは意図的な「サンゴ礁保全」外しさえ感じられる。
 二酸化炭素固定能力を備える「サンゴ礁保全」こそが温暖化問題への答である事をサンゴ礁の島から訴えるべきである。先進国中サンゴ礁を最も多く持つ日本 の沖縄から、県民の大多数が生活する土地がサンゴ礁によって作られた隆起石灰岩地質の沖縄から、「地球温暖化対策はサンゴ礁保全で」を訴えるべきではない か。サンゴ礁生態系は、干潟やマングローブの組み合わせの中で支え合っている事が明らかにされてきている。日本が世界に向けて地球温暖化対策を牽引したい のなら、沖縄本島で計画中の泡瀬干潟や辺野古の埋立て中止で示さなければいけない。また海域に影響を与える県内公共工事は、サンゴ礁への配慮を加えた割増 し予算を要求すべきである。特に海域に直接影響する港湾工事や浚渫は、本土基準の工法と予算で着工させてはいけない。
※地球誕生の歴史:http://uchunoshinpi.com/tikyutanjyo/tikyutanjyo.html
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世界のサンゴ礁マップ

9・今後のオニヒトデ対策と市民へのお願い
 2月29日環境省・国際サンゴ礁研究モニタリングセンターで、第9回八重山地区オニヒトデ対策連絡会議が開催されたが、この投稿で伝えたい観光業・水産 業の危機を確認・共有するまでには至らなかった。オニヒトデ大発生の危機に向けて官民上げた対策と検討を初めなければいけない。5年間のオニヒトデコント ロールを実現した漁協チームが活動出来る支援対策を早急に御検討下さい。産卵前の今動かなければ、30年前のオニヒトデ大発生再来を受けて、数年後に廃墟 のサンゴ礁を目前にして間違いなく後悔します。
 八重山ダイビング協会では、守らなければいけない海域を選定し繰返しのボランテア駆除を継続します。特に川平石崎は八重山ダイビング協会員にも八重山観 光にも重要な海域で、日本一遭遇率が高いマンタは観光石垣島のシンボルにもなっている程です。オニヒトデ食害によってサンゴ礁が全滅すれば、マンタが訪れ なくなる可能性があります。「準オニヒトデ大発生」は今後どの海域でも発生しかねない状況で、ぜひ市民沢山の方で海面下を監視し、異変があれば連絡下さる ようお願いします。ボランテア駆除参加の希望を協会員以外の方からも頂きますが、水深が浅い10m前後とはいえ管理面での責任が発生しますので、ダイビン グ協会員のサービスに相談して下さい。オニヒトデの探し方から刺された時の対処まで、各サービスはマスターしてます。春先までのボランテア駆除にかかる経 費(駆除棒制作費・燃料代・タンク代)の寄付をお願いします。1月10.11日、2月29日のボランテア駆除では、82名のダイバーと8隻のボートが無償 でタンク代・燃料代を負担しており、その総費用は概算で20万4千円にもなります。お心のある方は八重山ダイビング協会に御連絡下さい。
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石垣島東海岸・国内最大の石東裾礁、黒く見えるところは全て生きサンゴ群で白保青サンゴ群体の北海域。
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